最初はお金が取り持つ縁だった、けれども今は違う

いわゆる神待ち掲示板というものが、援助交際をやりたいと考える者たちのたまり場になっていることはよくわかっていた。
普通なら、援助交際というキーワードに顔をしかめて、そんなサイトなんてアクセスしたくないと考えるのかもしれない。

けれども、私はそうではなかった。
心の底から援助交際に手を染めることを望み、そして実際に手を染めた。
やってしまえばあっさりしたもの。
もともと、サイトを利用することに対するためらいは、他の多くの人よりもずっと少なかっただろうと思うのだが、それでも、仮にも女である私がこれっぽっ地もためらいを感じていなかったのかといえば、もちろんそんなはずはない。
人並み以下だが、ためらいは感じていた。
けれども、投げやりに思う気持ちのほうがずっと強かったのだ。
だからこそこういう結果を招いた。
そして、決して負け惜しみではなく、こういう結果を招いたことをこれっぽっちも後悔していない。

私は今日も、ホテルの部屋で男を待つ。
援助交際をする際、普通は男が女性を待たせないで済むように先にホテルの部屋で待っているものだろうと考える人がいる。
けれども、私の場合は別だ。
変わっていると思われるかもしれないが、ホテルの部屋で一人、援助交際相手の男性を待つ、そのわずかなひと時が好きなのだ。
援助交際を何度経験しても、その結果いくらのお金を積み上げても、この価値観は変わることがない。

私には、いわゆるセフレがいる。
別に、その相手に貢ぐために大金を稼いでいるとか、そういうわけではない。
セフレとしてであったはずなのに、これっぽっちもエッチが上手ではなく、かといってそのことをまっすぐに指摘するわけにもいかないので、援助交際を始めた次第。勢い余ってといえば、少し表現が違うだろうか。

セフレとも会うのだけれども、援助交際をしている時とは全く別の感覚だ。
最終的にどちらか一方だけの関係を選べと言われたら、さんざん迷った挙句に、援助交際の継続を選ぶだろう。
こちらのほうが充実しているという率直な気持ち。

私は読書が趣味なのだ。
けれども、セフレとはそのあたりの価値観も理解し合えない。
漫画を読むことすら苦痛だと唸るような人。
しゃべっているとどうしても疲れる。
対話という行為には大変な労力を使う。
その人が持っている知性が率直に現れることもしばしば。
頭が悪そうなしゃべり方をしている相手に対しては、ああ、こいつろくに本も読まないんだなということを思う。
口に出すようなまねはしないけれども、ひょっとしたら表情に不快な気持が表れているかもしれない。
そこまで相手に確かめたことはないし、確かめたところで率直な印象は返ってこないだろう。

そもそも、どうしてそんなろくでもないセフレとの関係を何となく続けているのかといえば、現在も継続している援助交際相手との付き合いよりも先に始まってしまったからというほかない。
それ以外には一切の理由がない。
もしも、援助交際相手のほうが先に出会えていたら、私がわざわざ援助交際の専門サイトを利用してセフレを探し求めるということもなかった。

そろそろ、関係を一本に絞りたいな。
そんなことを考えていたら、私のパートナーが部屋にやってきた。
さて、お仕事の時間だ。
とはいえ、他人から無理やりにやらされる類の仕事とは全くわけが違う。
自分から望んで飛び込んだこの世界、体を資本にして稼ぎを手にすることは確かにリスキーかもしれないが、人生には他にもっともっとつらいことがあるし、他に副業でお金を稼ぐ手立てがあるわけでもないし、そもそも私は自分の人生についてもそれほど誇大な価値観を持っていない。
そんな勘違い女にはなりたくないと考えている。
生まれた人間は、皆いつかは絶対に死ぬのだ。
あらゆるものが不完全、不平等な人生の中で、死だけは平等だ。
その瞬間が早いか遅いか、それだけの違いしかない。
どうせ死ぬなら、生きている間に私が好きに使える時間は好きなように使いたい。

彼は、援助交際という名目のパートナーだからといって、私の体をいきなりべたべた触ったりはしてこない。
仮に、そんなことをされたところで多少はびっくりするくらいで「これは仕事だから」と割り切って我慢するが、もちろん内心では気分の良いものではない。
彼はその辺距離感のもきちんとわきまえている。

彼はどちらかというと口数も少ないので、私に挨拶をしたあとは自分から会話を続けることもほとんどない。
反対に、私はおしゃべりなタイプなので、自分の話をじっと聞いてくれる相手にそばにいてほしいと思う。
どんな話題を振っても嫌煙せず、とりあえず耳を傾けてくれる人が理想だ。

特に、なかなか人に話せずたまっているタイプの話題は、愚痴。
こればかりはなかなか、身近に話を聞いてくれる相手がいない。
友達が少ないというわけではないと思う。
私はごく普通のOLとして中規模の会社に勤務しているが、職場ではどちらかというと自分から話を持ちかけるよりも相手の話をじっと聞くほうが機会が多い。

そのことに対して不満はない――と思う。
ただ、最近は同僚や後輩から聞かされる愚痴の種類が、恋愛ののろけがらみのものばかりになってきて少々疲れてしまうのも事実。
あれって、話している本人はむちゃくちゃ楽しいのかもしれないが、話を聞かされる側にとっては結構苦痛だ。
だいたい、写真を見せられただけの相手について延々と愚痴を聞かされ、「どう思う?」と尋ねられたところで、いったい何を答えろというのか。
せいぜい苦笑いをして見せることしかできることがない。
相手のほうも自分が話を聞いてほしいだけで対し体験を求めているわけではないとわかっているが、それでもなかなか反応に困ることがある。

さて、ここまで話を進めると、ひょっとして疑問を頭に浮かべ始める人がいるかもしれない。
私は冒頭で、神待ち掲示板を利用して援助交際を始めたと書いた。
それは確かに間違いない。けれども一般的に、神待ち掲示板を利用するのは未成年の少女ではないのか、といぶかる人が多いことは想像に難くない。

確かに、神待ち掲示板と呼ばれるサイトは少々特殊な成り立ちをしていて、出会い系サイトの中でもかなりアダルト寄り、その内部でできること、実際に行われていることについても、一般的な出会い系サイトとは大きく異なっている。
厳密には出会いを求めるサイトではないと思うのは私だけか?
これは言うなら、憂さ晴らしのために人とつながりたいと考える人たちが、藁にもすがるような気持ちで利用するサイトだ。

私は別に、家出をしたわけではない。
そもそも一人暮らしなので、親とけんかして飛び出してくるような家がない。
私がなぜ家出掲示板を利用したのかといえば、それは一言で「興味本位」とすれば方が付く。
もともと、私がやりたかったのは援助交際だ。
体を資本にして、恋人がおらずに悩む子ヒツジたちからお金を取る。
そういう生活をしてみたかった。
会社勤めにそれほど大きな不満があるわけではないが、どうしても「やらされて仕方なくやっている仕事。押し付けられている仕事」という意識が強くて、何か違うことをしたい、
生きていることを実感できるような仕事に手を出したい、と思ったことが、援助交際に手をだしたきっかけだ。
屁理屈のように聞こえるかもしれないが、そもそも援助交際――もっと直接的な言い方をするなら、セックスというものは、まず自分が生きていなければできるものではない。
私はそのあたりのことに魅力を感じたのだ。他者との肉体的なつながりを求めながら、自分自身が生きていることを強く実感できる、それが援助交際というものではないだろうか。
少なくとも私はそのように考えている。

お仕事は大変ですかと聞かれたので、相手をさりげなくベットのほうへ誘導しながら、ぼちぼちですねと答える。
二人で並んでベットに腰かけた時、私のスイッチが入る。
かといって、いきなり大胆なことをするわけではないけれども。

パートナーは、私がOLとして勤めていることを知っている。
だからこそ、夜の遅い時間まで私を引き止めたりしない。
私はあらかじめスケジュールを調整して、仮にお泊りすることになっても大丈夫なようにしてあるのだが、彼は非常に律義なので「君の仕事に差し支えるといけないから」といって、まず間違いなく日付が変わる前に帰してくれる。

彼は、いわゆるエリートサラリーマンだ。
本人にステータスがあるばかりではなく、かなりのお金持ちの家で生まれ育ったと知ったのは、少しあとになってから。
ただ、彼自身は、親の庇護を受けて自分は何一つ努力をしないという生き方が納得できず、親の跡継ぎの権限は次男に譲り、自分は親を説得して、やっとの思いで一人になった。
自分を守ってくれる後ろ盾がなくなることに、さしたる不安はなかったという。
実際、私の目から見て、彼はとてつもない努力かであろうということが伝わってくる。
若干、真面目すぎるきらいはあるけれども。

ただ、性格的に口下手で、以前の恋愛でて痛い目を見た経験があり、どうしても女性に対して苦手意識を持っているという。
ただ、顔はそんなに悪くないし、見た目も若い。
二十代の前半、ひょっとすると私と同い年くらいではないだろうか。
口下手だという通り、会話の時に時折つっかえることはあるものの、それは、相手が慎重に言葉を選んでいる証だから、彼が話し始めるまでじっくり待ってあげればいいだけだ。私にとっては、考えなしに口さかなくしゃべる男よりも、よほど印象が良い。

初めての時は、私だっていろいろと戸惑った。
なにしろ、私のパートナーになる人がどんな人なのか、まったく想像ができなかったから。メールだけのやり取りでは、相手の本賞などこれっぽっ地も見えてこない。文面を見る限りではおとなしそうな男性も、いざ実際に顔を合わせてみるととんでもない鬼畜だということもあるかもしれない、そんな不安があった。
これは、援助交際というものに手を染める女性の間で共通する心理だと思う。

はたして、彼はやってきた。
私たちはまず、当たり障りのないおしゃべりで時間をつぶした。
彼の第一印象が非常によかったので、ころ合いを見計らって、私のほうから「おさわりしますか?」というサインを送ってみたが、彼は終始うつむき加減で地震がなさげ。
私のサインに気が付く様子はなかった。

時間が遅くなったらいけないといって、彼がホテルの部屋を辞去しようとしたのは、午後十時ごろ。
私の感覚からすればあまりにも早すぎるが、かといって、もう少しいいですからと過剰に引き止めるのは不自然だろうと思って、丁重にご挨拶をして別れようとした――その時だ。

そういえば、お金をもらうのすっかり忘れてたな、まあいいや、彼とのおしゃべりはすごく楽しかったし、私もそこまでお金に困っているわけではないし、また次も会うだろうし、などと考えていた矢先、いったんは部屋の戸口へと歩を進めた彼が、ふと何かを思い出したかのようにくるっと振り返って戻ってきた。

そういえばお金を払うのはすっかり忘れていましたと言った彼は、私に「小切手がいいですか? それとも現金のほうがよろしいですか?」と聞いてきた。
何の事だかさっぱり分からなかった私は、ほとんど適当に「え、じゃあ現金でお願いします」と答えた。

すると彼は「そうですか、厳禁だと少しかさばるのですが、と呟いて、腕に抱えていた高級そうなアタッシュケースをベッドに置き、静かに解錠した。
その中から顔を見せたものは――大量の札束だった。

映画の世界でしかお目にかかったことのないようなビジュアル。
ごく一般的な東京都民である私には、ぱっと見ただけでいくらあるのかなどわかるわけがない。
彼いわく、金額は五千万円にも上るそうで、それを聞いた私が真っ青になっていると、札束を突き返す暇もなく、彼はとうとうと語り始めた。
口下手なはずの彼が、迷いなく。

本来なら、五千万でも少なすぎる。
あなたのようなきれいな女性とお話しさせていただいたことは、僕のような人間にとってまさしく夢のような経験でした。
今日はこれだけしか用意できないので申し訳ないですが、ぜひまた後日お会いしたいです。
みたいなことを言ったのは彼。
私にはさっぱり意味がわからなかった。
援助交際で五千万円もらうとか、マジで聞いたことがない。
それも、セックスやおさわり一切なしで、おしゃべりしただけ。ぼったくりにもほどがある。私は確かに、自分のスタイルや養子にそこそこの自信を持ってはいるけれども、だからといって初めての援助交際で、それもセックスやおさわり一切(以下略)のありさまで五千万はもらえない。
申し訳ないけれども犯罪っぽい。

私がいくら受け取りを固辞しても、相手の男性は納得しなかった。
仕方なく折れた私は、現金ではなく小切手で大金を受け取らせてくださいと要求。
大きい鞄を持ってきていたわけではないし、どう考えても5000万円もの大金を持って帰るのは怖かった。
小切手なら何とか恐怖心をごまかせるのではないかと考えたのだ。

しかし、その考えは結果として間違っていたといわざるを得ない。
かさばろうがそうでなかろうが、怖いものは怖かった。
だいたい、小切手ってどうやって使うのかがわからない。尋ねようかと思ったけれども、うまく話せないうちに相手のほうが先にホテルの部屋から出て行ってしまった。

ネットで調べたら、小切手の使い方は簡単に分かった。けれども使うつもりはない。
次に会ったときに、あの人に返そうとそればかり考えていた。
しかし、ネットで調べたところで金持ちの金銭感覚はよくわからない。
わたしごときと話をしたくらいで、五千万?
私は何一つ嫌なことをされていない。
むしろ楽しかったくらいだ。いい気分転換になった。

いろいろと想像を膨らませるうち、私はちょっとしたいたずらを思いつく。
たかがおしゃべりで五千万円ももらえるなら、これがもっと大胆なサービスならどうなるだろうか。さすがにいきなりおさわりはないにしても、たとえば――
想像を膨らませる時の私の顔は、かなりニヤついていたはずだ。他人が見たら気持ち悪かっただろう。

次に彼と会ったのは、初めての時から二週間後だった。場所は前回と同じホテルの一室だ。
いつも通り相手よりも先にホテルの部屋に入った私は、前回と同じように本を読みつつ相手を待つ。
けれども、今回は少しだけいたずら心を起こしてみた。

彼がやってきたときは、いきなりドアを開けずにノックして教えてねということをあらかじめお願いしておいた。
基本的に、約束をむげにするような男性ではないので、律義にドアをノックしてくれるであろうということは分かっていた。
そして実際、彼は律義に部屋のドアをノックした。

私は少しだけ彼に待ってもらってから、できるだけ平静を装って、入っていいよと答えた。
何の疑いもなく、彼が部屋に入ってくる。
そして、驚愕。
当たり前だろう。
なにしろ、部屋に一歩足を踏み入れたそこには、下着姿の私が突っ立っていたのだから。
彼はまるで妖怪でも目撃したような悲鳴をあげて、踵を返してドアの外に逃げようとする。そんな彼の動きを私がとどめて、落ち着かせる。
とはいえ、彼を止める際に、とっさの判断で腕を掴んでしまったものだから、彼は余計に緊張してしまって、後ろを向いて固まったまま、私のほうへ振り向いてくれなくなった。

これではらちが明かないと思い、あきらめて服を着ることにした私。
服を着る間、そのまま後ろを向いていてくださいとお願いしたのだが、私が彼の腕を放したその瞬間、彼はいちもくさんに部屋の外へと逃げてしまった。
あそこまで緊張されるとからかい甲斐があるのかないのかよくわからない。
正直なところ、感想を聞くことさえできなかったのはちょっと面白くない。
初心にもほどがある。男なんだから、アダルトビデオとか何とかで女の裸くらい見慣れているだろうに。
私だってアダルトビデオくらい見るのに、そもそも私は裸ですらないのに。

下着姿くらいでこの調子なら、いざエッチしましょうということになった時、彼はどのような反応を見せるのだろうか、そんなことを考えながら私は服を身につけ、無事に作業が完了したので彼を呼び戻した。

最初、声をかけても反応がないので、もう彼は戻ってきてくれないのではないかとか、あまりにびっくりして帰ってしまったのではないかと心配したが、かなりの間をおいて、彼はちゃんと部屋に戻ってきてくれた。
顔つきは明らかにこわばっている。

とりあえず謝る必要があるだろう。
申し訳ありませんでしたと私が頭を下げると、彼は何を勘違いしたのか、私に向かって土下座してきた。
そして、泣きそうなほど弱弱しい声で、私に謝罪するのである。
何度も何度も、ごめんなさいごめんなさいと。
まったくとんでもない話だ。彼をからかったのは私のほう、非があるのは明らかに私の方、なのにどうして彼が死にそうなテンションで私に謝っているのか。

悪いのは私の方ですから、どうか顔をあげてください。
私が何度もお願いすると、彼はようやく顔をあげてくれた。
そうして、ふらつく足取りの彼の肩を支えつつ、前回と同じように二人並んでベッドに腰掛ける。
そこで私は改めて、心から彼に謝罪した。
つまらないからかいかたをして申し訳ありませんでしたと。それからすぐに、私はすぐに、前回彼から受け取った五千万円分の小切手を返した。
彼の性格からして、小切手の押し付け合いになることは何となくわかっていたが、私の方が勢いだけで押し切った。
こんなものをもらうくらいなら首をつって死にますと言ったら、ようやくあきらめてくれたのだ。

前回話してみた時に、彼が非常に良い人柄を持っているということは分かった。
この日、私にはもう一つ確かめたいことがあったのだ。
包み隠さず言うなら、それはズバリ体の相性である。
きちんと働いて、性格も顔もよいいい男。
はっきり言って、お婿さん候補としては十分に合格である。
多少口下手なこととか、出会いのきっかけが家出サイトだったとか、ぶっちゃけそういうのはどうでもいい。
出会いの場がまともではないのはよくわかっている。
仮に、街コンなどまともな場所で、しっかりお金と時間と手間をかけてよい出会いを目指しても、良い結果につながるかどうかなんてわからないのだ。

彼との体の相性を確かめたい、そう考えた途端、私は大胆になった。
これは単なる遊び心ではない。
本気になった女は強いのだ。
相手はあまり自分から積極的にアプローチしてくるようなタイプではない。
だから、私の方からエッチに……もとい、ちょっとだけ積極的になろうと決めた。
女は、エッチなことをされるのが嫌いなわけではない。
好きでもない男からエッチなことをされるのが我慢できないのだ。
好きな男になら、何をされたって構わない。

超奥手の彼に対して、私はいろいろと策略を考えた。
いきなりエッチしましょうとか、愛し合いましょうとか、体の相性を確かめ合いましょうとか、意味するところは結局すべて同じようなピンク色の言葉を並べたてたら、また彼は真っ青になって逃げてしまうのではないかと思われたからだ。
しかしながら、彼は経済力も社会的な立場も非常に安定している。安定しているどころか、暮らし向きは豪奢である。
私が保守的に行き過ぎると、もたもたしている間に他の女に奪いされれるという事態は容易に想像できた。

回りくどくデートに誘おうか、それとも直接的に童貞を奪ってしまおうか、普段なら絶対これほど頭を使わないのにと確信できるほど頭を使った末、わたしは結局のところ、よし、両方いっぺんに実行しようという結論を出した。
ありふれた結論である。
要するに、恋人同士がするようなデートを満喫した後、暗くなってからホテルに誘いだそうという計画だ。
計画というほど大げさなものでもない。

今度、二人でデートしませんか。
そんなふうにストレートな誘い方をした時も、私はあまり緊張しなかった。
もともと、援助交際に手を出していたような女である。人並みの恥じらいはあっても、やや勘違い気味の女子高生のように、自分の体を異常に貴重品扱いする必要も感じなかった。
どうせ、いつまでも独り身でいるのは考えられない。
結婚生活を考えれば、一度もエッチしないなんてことはもっと考えられない。
普通はこういうとき、男性の方から誘ってほしいけれども、相手が超奥手な人であるなら仕方がない――ということで私が誘った。
ごく自然な成り行きだ。

ただし、わざわざデートがどうのこうのという誘い方をしたので、相手の方は体の関係を意識しなかったかもしれない。
もちろん意図的に意識させなかったという部分は少なからずあるわけだが。

そして、私は愛おしい彼とデートした。
先走って、愛おしいなどという言葉を使ってもいいものだろうかと思うが、もはや私の心は完全に、彼を将来のお婿さん候補としてロックオンしていたので、何ら抵抗はない。
遊園地のど真ん中、つまるところ観衆の面前で押し倒されても、私は一向に拒まなかったかもしれない。
しかしながら、彼の方がそんなふしだらな女を受け入れてくれるものかどうかという不安はあるけれども。

彼は口下手であり、かといって私の方もだんだんとしゃべることがなくなってきたために、デートの後半はとりわけ、お通夜のような沈黙が流れた。
私がたとえ頑張って言葉を絞り出しても、彼の方から芳しい反応がないのだから仕方がない。
沈黙をするしかなくなってくる。これも予想していたことだから仕方がないといえばそれまでのこと。
それに、沈黙というものも慣れてくれば悪くないものだ。

私がいつまでたっても帰ろうとしない、というより帰りたがらないので、彼の方もだんだんと、私の本音を掴んできただろう。
自分の方から誘う勇気はなくても、レディーからの誘いを受けて断ることはない――というのは当初、私のはかない願望に過ぎなかったが、えてしてその通りになった。

遊園地から少しだけ距離はあったが、私たちはわざわざ、二人が初めてエッチなことをしたホテルの部屋を取った。
少しでも慣れ親しんだ場所なら、彼の緊張も和らげられるだろうと考えたのだ。

ホテルの部屋でも、私はストレートに彼に迫った。
具体的には、私はあなたのことを信頼している。
将来的には結婚してもいいと考えている。
だからあなたが私の体に触れることは犯罪行為ではなく、むしろ和姦である。
だから今夜、エッチしましょうと。
まさかこの通りに一字一句たがわず口にしたわけではないが、口にした言葉の内容は大体こんなところだ。

彼は最初たじろいでいたものの、私としばらく遊園地を散策したことが功を奏したのか、初めての時のような異常な興奮と緊張感からは解放されている様子がうかがえた。
しかしながら、女性経験が皆無(推定だが)の彼は、本当に何から始めたらいいのか全く分からなかったらしく、完全に気を許してガードを緩める私に対して、一体何をすればいいですか。と聞いてきた。

私はあまりに可笑しくて、笑い出してしまいそうなのをぐっとこらえ、からかい半分に、
「あなた、ひょっとしてアダルトビデオも見たことがないの?」
という言葉を口にしてみた。
それに対する彼の答えは、アダルトビデオを見たことはもちろんあるが、まさかあの手の映像の中で行われているようなことを真に受けて、そっくりそのままあなたにするわけにはいかない、と答えた。

 この答えを聞いて私は一層安心した。
彼にはきちんと常識がある。
アダルトビデオが描き出す世界観が異常なものであることを意識している。
私はできるだけ自然に見える笑顔を作り、まずは服を脱がせてください。
とお願いした。
二人で一緒にシャワーを浴びるつもりだった。

気の早い話だが、私は、最初の一回目くらい、挿入までいかなくても、気持ちよくなれなくても、それどころかものすごく痛くても、笑顔で彼を許そうと心に決めていた。
女性経験のない彼が、初めから上手なセックスを披露できるはずがない。
むしろ、超が付くほどへたくその方が安心させられる。
やっぱり彼にとって私が初めての女なのだと。

ところが、私の服を脱がせにかかる彼を見ていると、ほんの少しだけ不安が大きくなった。私たちは今、ホテルのベッドに腰掛けている。
決して暴れたり走りまわったりしているわけではない。
それなのに、彼はなぜ、たかだか私の服を脱がせるくらいのことでここまで苦労しているのだろう。
確かに、女性向けの服には、かなり複雑な構造をしたものもある。
しかし、今日の私のコーディネートは、見栄えの良さに加えて、さりげなく脱がせやすさ(?)も意識したはずだ。
それなのに、ここまで苦労されるとさすがに切なくなる。
私を裸にするくらいのことで真っ赤になって、手が震えている。
かわいいといえばそれまでだけれど、私はもともと援助交際に身を投じていたような女で、もっともっとがさつな男たちを見てきた。
ここまで繊細すぎるとかえって心配――さっきから心配し過ぎなので、もうやめよう。

彼がとりわけ苦労したのがブラジャーだ。
確かに、ホックを外すのは少しだけコツがいる。
けれども、女である私たちは、小学生のころから暗黙のうちに、ブラジャーの付け外しくらいの術は身に付けていた。
コツがいるといっても、まさか難解な数学の問題のように手の出しようがないということはない。

あんまりに苦労している彼がかわいそうになってきたので、私がホックをくるっと回して前側で外してあげようかと考えていた矢先のこと、ようやく、彼がブラジャーのホックを外してくれた。
思い込みでも勘違いでもなく、掛け値抜きで大きい、Eカップの乳房がプルんと顔を出す。これまで、仕事上やむをえなかったとはいえ、私は胸をやたらと揉まれることがそれほど好きではない。
けれども、彼にだったら何をされてもいいなと思えた。

私だけが裸にされたら恥ずかしいですからといって、彼にも服を脱いでもらうよう依頼した。彼はテンパリながらも一枚ずつ服を脱いでいく。
思わず噴き出しそうになったのは、彼が靴を履いたままズボンを脱ごうとした場面。
ずいぶんと苦労していたが、そりゃあ脱げないだろう。
けれども、頭に血が上ってショート寸前の彼は、どうして思い通りにズボンが脱げないのか分からない様子だった。
彼がもたもたしているうちにしかと確認したが、彼のペニスはもう限界まで勃起していた。
後で絶対、少なくとも一回くらいは抜いてあげよう。
このままではかわいそうだ。
それにしても、私が股間を凝視していることにさえ気が付かないなんて。

 なんとかパンツ一枚になることができた彼は、私と肩を並べてバスルームへ向かう間、しきりに股間を気にしていた。
勃起していることがみっともないと思っているのだろう。
別にそんなことはないのに。
ちなみに私は、ショーツだけを身に着けていたが、まさか彼に対してこれを脱がせてくださいとお願いしたら、彼が興奮のあまり卒倒すると思ったので、バスルームにたどり着いてから、彼が背を向けているうちに素早く自分で脱いだ。

 ちょっといたずら心を起こした私が、彼のトランクスを後ろから脱がせる。
これだけで相当驚かせたようだが、やめてくださいと振り返った拍子に、私が惜しげもなく陰毛をさらしている姿を見て、なにも言えなくなったらしい。
卒倒しなかっただけ偉い。
そもそも、お風呂には男女問わず素っ裸で入るものだ。
勃起したペニスが引っかかって脱がせるのに苦労したが、幸いにして、精液が暴発することはなかった。

 シャワーの温度を確かめて、自分の体をまずは流す。
緊張から解かれることがないらしい彼のペニスは硬いままだ。
むしろ、勃起の程度は先程より悪化している気さえする。
私自身、男性との肉体関係がないわけではないが、これほどまで真剣に、男性器を見つめた経験はない。

一回抜いてあげても、またすぐに元気になるだろうか、そんなことを考えながら、私は彼に対して、お背中流してあげましょうかと声をかける。
彼は当初遠慮していたが、抵抗することに疲れたのか、それではお願いしますと頭を下げた。

ボディータオルに石鹸を泡立てて、背中から擦っていく。
普通はこんなところから洗い始めるわけがないのだけれど、私が彼の背後にいて、彼がびくともしないのだから仕方がない。
ゆっくりゆっくりと、彼の全身を石鹸まみれにしてゆく。

そうして、残すところは彼のペニスだけになった。
触るとどうなるか分からなかったので、意識的に避けていた部分だ。
私が意を決して彼のその部分に――触れた瞬間。
見事に暴発した。
男性の生理現象。
乳白色のそれが、どくどくとあふれだす。
当の本人が一番驚いている様子だが、勘違いしないでほしい。
私はそれほどいやらしい触り方をしたわけではない。
むしろ、触れるか触れないかの微妙なあたりだった。
間違っても「気合いを入れてしごいたり」していないのに。

当然、私の手にも大量の精液が付着した。
彼はそのことにたいへんな責任を感じているらしく、今すぐにでも切腹しそうなくらい真っ青な顔色で、私に何度も何度も謝罪した。
私が「謝るようなことではありませんから。これはごく自然なことですから」と何度言っても聞かなかった。

ちょっと触れただけでこの調子か。
私が本能をむき出しにして迫ったら、いったいどうなるのだろうか。
ちょっと意地悪な気分になりつつ、私は彼に聞いてみた。
「あの、失礼かもしれませんが、ご自身で、その、されたりは?」
「……何を?」
「……ですから、オナニーとか」
 私がそういうと、彼は引きつけでも起こしたように黙り込み、やがてぽつりとつぶやいた。
まったく経験がないわけではありませんが、普段から好き好んでやったりはしませんと。
私からすれば信じられない。
私など、三日に一回は少なくとも自分で自分を慰めなければ気が済まないのに。
そんなことを本気で口にしたら、彼はなんと言うだろう。

 いたずら心が抑えきれなくなり、私は後ろから彼に思い切り抱きついた。
そんなことをすればもちろん、彼の背中で、私のおっぱいがむにゅっとつぶれることになる。
柔らかいでしょー、気持ちいいでしょー、たまんないでしょー、と念を送りつつ、やめてください離れてくださいと悲鳴を上げる彼を完全に無視して、私は彼の肩甲骨あたりにキスをした。
自発的な気持ちで異性にキスをした経験など、何年振りだろうか。
 彼にいたずらをしながら、私は一つ、心に決めたことがある。
もう、あのセフレには会わないでおこうと。